「めーこ姉の新しい服のレースね、あたしやミク姉とお揃いだよね!」
「そうねー。可愛い系の要素なんてちょっと照れるわ」
「もともとのめーこ姉の声プラス新しく5つだっけ? ぜんぜん雰囲気違うしすっごい楽しみ!」
「あら、もともと私の声は2つあるのよ」
「えええ?」


深層心理のその奥で


リンの甘い鼻歌が浴室の曇った空気を揺らす。
エコーが程よく効いたこの空間では、いつもより歌がうまくなるような気がして、
こっそり第二の練習場所として活用する住人が少なくない。
もっとも誰かが洗面所まで近づけば声は筒抜けになるのだけれど。
「でね、レンが買ったのが当たったの」
「あらあら。カイトが悔しがるわ」
「今度カイト兄とも買いに行こうかなー」
近所の駄菓子屋では来週の末までアイスキャンディにくじを付けているそうだ。
白熊印の特製氷菓子は子どもたちの買い食いにちょうどいいサイズらしく、
寒さをものともしない双子はことあるごとに運試しをしているようだ。

「めーこ姉熱くない?」
「私はこれくらいでちょうどいいわ。さ、交代ね」
「あたしもうダメー」
洗い終えた髪をヘアターバンでまとめ上げたメイコに替わり、十分温まったリンが湯船を出る。

晩御飯の後居間のソファで眠り込んでしまったミクにブランケットをかぶせて、二人きりのバスタイムだ。
目を覚ましたらミクはきっとうらやましがるだろうので、ティータイムはたっぷりとろうと相談のうえで。
男性陣は泊まりの収録のため、ガールズトークは否が応でも弾むだろう。
そんな予感がする、とある年の瀬の午後9時過ぎ。

「確かにMEIKOとKAITOはパラメータ次第で色んな幅の声を出せるっていうけど、アペンドって出てたっけ?」
V1の調律が自分たちV2と比較してマニュアル車とオートマチック車の運転に例えられることを聞いて以来、
並みならぬ憧れを抱いている重機系女子である妹は、髪を洗い流したシャワーの雫を頭をぶるぶる振い払った。
「アペンドなんて大げさなものじゃないけどね。リリースしてしばらくしてから
元々のVer.1.0に追加でVer.1.1が搭載されることになったの。おかげで随分表現力がついたわ」
「へええ! そんなに違うんだ」
後に「ゼロとイチ」で名を馳せるその二つのエンジンは、メイコ自身、そして同じエンジンを持つカイトにも少なからず影響を与えていた。



********
「めーちゃん! 練習見てもらってもいい?」
大型種の子犬を彷彿とさせる挙動が初々しい後輩と、一つ屋根の下で暮らし始めてからまだ日は浅い。
スケジュールを確認しようとカレンダーに目を遣り、定期検査の要請が来ていたことを思い出す。
「ええ。昨日のところは直ったかしら」
うん、と大きく頷く彼は無邪気そのもので、よくもまあこんなにニコニコしていて飽きないものだと感心する。
ビジネスライクな会話やひととの接触以外、ほとんど表情を動かす機会がなかった私は、
新しい同居人の世話を焼き始めてから、今までにない行動、思考パターンが自分の中に生まれてくるのに初めは戸惑ってばかりだった。
しかし今にして思うと、それは今までの日々がまるで夜明け前の薄闇に包まれていたかのように、
同胞との生活によって世界は色づき始めていたのだ。
軽口、冗談、共感、指南――。
これまで関わってきたどのひととも違う存在。
彼は私と同じ、ボーカロイドだった。

「ここが……、どうしても譜面通りの音が出せないんだ……」
見えない犬耳と尻尾がしゅんと伏せられる気配がした。
カイトが躓いているのはBPMが早くて音程が目まぐるしく高低を行き来する練習曲。
早口もさることながら、音がうまく取れていない。
私が弾くレコーディングルームのピアノをなぞるカイトの歌はやはり音程が微妙にずれていた。
プログラムされた絶対音感は、指定の音符の通り喉を震わせる。
それがほんの少し、1/8か1/16か――、わずかなずれが不協和音を生み出し、皮肉なことにその事実は耳に痛く響くのだ。
「そうねー……」
自身もそのメロディを口の中で転がしてみて……ふと気づいた。
ピアノのキーと脳裏のイメージに、口から出る実音が伴わない現象。
目を閉じて大きく息を吸うと、カイトが戸惑ったように身じろぎをする気配が伝わってきた。
身体の奥の奥にある機械の部分(私はそれをスイッチのイメージで捉えている)、に研ぎ澄ました意識を集中させ、くっとこめかみに力を入れた。
体内を巡る血流が一瞬ざわっとそのテンポを変え、ふうっと息を吐くと鼓動が遅くなったことを自覚する。
「めー、ちゃん? 頭痛いの……?」
そしてもう一度、最初のキーに指を落とし、一気に声を放つ。
カイトが息をのむ音に、手ごたえを感じた。
「カイト、あなたのXXXXは分かる?」
「え? 確か********だったと思う……」
やっぱりだ。彼が口にした、暗号化されたプログラムパスワードに私は頷いた。
「今のあなたはVer.1.1なの。もう一つ隠されてるエンジンを解放すれば歌えるわ」
怪訝そうに私を見つめる青い目に、安心させるように笑いかけて種明かしをした。

私たちCRVシリーズのボーカロイドのデータベースには、二つのエンジンが共存しており、必要に応じて切り替えることができる。
Ver.1.0――ゼロは発音と音程の明瞭さに優れ、
Ver.1.1――イチは抑揚、なめらかさに秀でる。
以降のバージョンは現在のところまだ搭載の予定はないと聞いている。
起動時期にもよるけれど、私の前にいるカイトは初回起動時にデフォルトでイチを選択するよう設計されていたらしい。

「じゃあ、エンジンをゼロに切り替えたらうまく音が取れるってこと?」
「試してみる価値はありそうね」

ゼロへの切り替えパスワードはカイトの脳裏の片隅にあったようだ。
問題は切り替え方。
初期値がゼロだった私はユーザー立会いの下、イチへの初めての切り替えを行った。
その後はラボからのアドバイスをもとに自力で切り替えもできるようになったけれど、概念的な説明は言葉で表そうとするとなかなか難しいのだ。

「…………、という感じなんだけど……、分かる?」
「うー……、ん。分かったような、分からないような??」
「とりあえずやってみましょうか」

呼吸を整え、身体の力を抜く。
まずはリラックスさせようと指示を出すのだが、エンジンを切り替えるなどという曖昧かつ今の自身の根底を揺るがす行為に
カイトの緊張はなかなか解けない。
関節が白くなるほど握りしめた手をそっとほぐし、私の手を重ねる。
しばらく体温を交換していると、わずかに伝わってくる脈が私の速度に近づいてきた。
「その調子よ。ゆっくり息を吸って、吐いて。自分のタイミングでスイッチを押すの」
意識と身体のリズムを一致させようと、自分の内部と交感し合うカイトの閉じられた瞼の下で、眼球がぴくりぴくりと動くのが見える。
しばしの間をおいて、全身に力が籠り僅かな硬直に震えた。
どのくらいの時間が経っただろうか。
ゆっくりと顔を上げたカイトの透き通った瞳は、別人を予感させる温度で私を射抜く。
「大丈夫?」
「……」
頷いたカイトは無言で立ち上がり大きく深呼吸すると、再び私を見据え、ピアノを弾くよう目で促してきた。
私もそれに応え、今度は前奏から始める。
本当にゼロに切り替わっているだろうか。
私の読みは外れていないだろうか。
些末な心配は伸びの良いテノールにかき消された。
芯の強さを感じさせる正確な音程、明瞭な発音と切れのいいテンポ。
ネックだったサビの難関部は2番を奏でる途中で越えていたことに気づいた。
それほどまでに自然に、安定したパフォーマンスだった。

「カイト、上出来よ。後は細かい部分に表情を付けていけば完璧だわ」
安堵に緩んだ表情で見上げた彼はしかし、興味なさげに私を一瞥し、抑揚のない声で私に告げた。
「この曲はもういい。次の難易度の曲を練習したい」
呆気にとられて立ちすくむ私に、期待できないと悟ったのか、カイトは自分でファイリングされた楽譜を開き、新しいものを読みふけり始める。
読み解くというよりは、淡々とスキャンし記録するように。
「……カイト。私、何か悪かったかしら……」
「別に。私はただ歌いたいだけだ。この曲はもうマスターしたから必要ない。それだけのことに何か異論でも?」

絶句した。
これが、カイト?
さっきまで笑ったり困ったり緊張したり、くるくると表情を変えていた彼と同一人物?

質問に答えない私を訝しげに思ったのか、カイトは手短に説明を始めた。
それが「合理的」だと判断したのだろう。

曰く、ボーカロイドに求められるのはひとのための仮歌を作ることだ、と。
歌うこと以外の、容姿も、衣装も、感情さえも、個性は何一つ必要ない、と。

「……それがあなたの、"ゼロ"の行動規範なの?」
「バージョンの違いがどうであろうが他の個体がどう感じようが、私はそう思っている。Ver.1.1で起動してから先ほどまでの記憶は有しているが、
それに伴う感情等は必要がないと判断し11分28秒前から遮断した。その分歌に割くメモリを多く持っておきたい。
MEIKO、あなたもボーカロイドであるならば生産効率を上げることを重視してはどうだ」
話はこれで終わりとばかりに、「KAITO」は再び楽譜を貪欲に吸い上げることに集中し始めた。

エンジンの切り替えで性格が変わってしまうなんてことがあるのだろうか。
ゼロだった私がイチを知る。
感情に乏しかった私は喜怒哀楽を学び始めた。
けれど、今でもゼロとイチのエンジンは自由に行き来することができるし、記憶だって性格だって途切れることはない。
私と同じCRVシリーズであるのなら、私と同じことができるはずなのに、何故彼は根底から変動してしまったのだろう。
そう問うてもゼロの彼には取り付く島がないのは明確だ。
疑問を解決するには一度イチに戻ってもらうしかない。
私は即座に思いを巡らせ、説得を試みることに決めた。

「KAITO、あなたの言っていることは正しいわ。でもあなたの一部であるVer.1.1もまたボーカロイドなの。
開発元がボーカロイドとして望んだ機能に抑揚表現が入っているのだから、その機能を使わずしてこの曲は完成しないと思うの」
「……。それは一理ある。再度Ver.1.1でトラックを追加した後、次の曲に着手しよう」
存外にあっさりと引き下がったKAITOは、動きを止め、集中する姿勢に入った。
私はそれを固唾を飲んで見守る。
10秒、20秒……、時間が経つのがずいぶん遅く感じる。
1分、3分……、手伝った方がいいのだろうか。


「できない」
唐突に言い放たれた言葉にはっと我に返った。
部屋が静寂に包まれてから、優に10分は経過していた。

「MEIKO、あなたはエンジンの切り替えができるのか」
厳しい眼光を向けられ、たじろぎながら控え目に頷く。
叱責されているかのようで、怖い。
「あ、なたにもできるはずなんだけど……。どうして、かしら」
「現状では不可能と言わざるを得ない。データベース内を検索したが、Ver1.1を復元する方法は見つからない。
Ver1.0に切り替えを行った際に自動消去された可能性が――」
「嘘……!」
無意識に迸った悲鳴は、彼の言葉を遮りたいがためか。
すさまじいショックで血の気が引いていくのが分かる。
復元不可? 自動消去……?
それは言い換えれば、カイトが。
カイトがいなくなってしまったということなのか。
私の軽はずみな行為で、私と同じだという安易な思い込みで、柔らかで可愛かった彼は消えてしまった?
彼と暮らし始めて20日。たった20日。
それでもカイトの仕草を、性格を、特徴を、説明するのに1万文字程度じゃ全然足りない。
私は、自覚のないままカイトのことを気に入っていた。
カイトでないと嫌だった。

「MEIKO、何故泣いている」
カイトと同じ声でKAITOが問うてきた。
彼がいつも考え事をするときに前髪をかき上げて後ろへ流すくせ、嬉しいときに照れたように少し下を向いてはにかむ仕草……、
その片鱗すら残っていないことにじわじわと打撃を受けている。
瞬きをした拍子に水滴が床に落下し、割れた雫が跳ね返った。
指先が軋み涙を拭うこともできない。
「わ、たし、私、のせいで。カイトが」
震える声が掠れて裏返る。
「Ver.1.1の記録と音声データなら私のデータベース内に保存されている。
KAITOと共同で収録を続ける分には何ら支障はないはずだ。あなたは感情に左右され過ぎている」
「ち、が……そうじゃ、な、い」
しゃくりあげる私にKAITOは冷淡にゼロとイチの同一性を説明するが、殆ど耳には入ってこない。
頭がぐちゃぐちゃで、何をしていいかすら分からなくて、喪失感なんて知りたくなかった。
こんな感情は、いらなかった。


「――つまり、こういうことか。MEIKOはVer1.1のことを感情論で好いていて、同一の行動パターンを反復しなくなった私を気に入らない。
即ち、私が存在することを唾棄していると」
やけに明瞭に聞こえたその言葉を数回リフレインし、意味を理解した。
ゼロの彼は、私の感情を推測している。
この融通の利かない朴念仁の彼が?
そろそろと顔を上げると、KAITOは驚くべきことに、苦々しいと口述するしかない面持ちで私から目を逸らした。
「仮歌のための存在に徹するというのは私の持論だ。先達であるMEIKOが感情論を優先するとなればそれに従うほかない。
この空間はあなたのためのものだ」
KAITOは事も無げにそう言い放つと、席を立つ素振りを見せた。

行ってしまう。

このひとも。
私を置いて。

「や、待って……! ま、っ!!」
滲む視界が足元の注意力を奪っていた。
躓き倒れる私の顔面にテーブルが迫り――。
「MEIKO」
急激に方向転換し、彼の胸の中に抱きとめられる。
二人分の重力はそのままソファにもつれ込み、私の身体が痛むことなんてなかった。
「あ、ごめんなさい……!怪我は!?」
「無傷だ」
声のトーンは全く変化がない。
でも、作り物のその心臓は、鼓動は。


「やはりあなたは感情的になり過ぎる。同じような性質のVer.1.1を気に入るのは分かるが、そんなに大事なことだろうか」
私たちは並んでソファに座っていた。
お互いの顔も見ず、それぞれが正面を向いて。
彼は気だるそうに肘掛に腕を乗せ、私は大声を出した後の喉の疲労感を背もたれに預けていた。
泣き腫らした目はまだきっと赤いのだろうが、頬の涙の筋はもう乾いていてつっぱったような感触だけが残る。
「私には必要なの。私をここまで伸ばしてくれたひとたちが、喜怒哀楽も育ててくれたから。……これも持論になるのかしら」
「そうか。KAITOは人に感情を育てられた記憶はない。あなたとはスタートが違う」
私はちらりと横目でゼロを伺う。
その横顔が、なんだか拗ねているような感じがして。
「私が育てるわ。ひとにそう育てられた私があなたを育てるの」
静かに宣言すると、正面を向いたままの口角がわずかに上がった。
「確かに。人に育てられた記憶はないが、Ver1.1の記憶にはあるな。メイコと笑っている記憶が」
「あなたにもきっとできるわ。あなたはカイトだから。私と一緒に過ごしたカイトだから」
「では尚更、Ver1.1になり替わるべきだ。その役目は、彼が適任だろう」
だけど、と言いかける私に、ゼロは立ち上がり手を差し出した。
ラボに行って相談してこよう。こうなれば人の助けを得るしかない。
あっと私は間抜けな声を上げてしまった。
その手があったか。


夕陽の欠片がビルの陰に溶けてしまう頃、検査室の扉が開いた。
結果を知りたいけれど、知るのが怖い。
椅子からは立ち上がったものの踏み出す勇気がなく躊躇しているうちに、青い髪の後輩が飛び出してきた。
「めーちゃん!」
私の名を呼ぶその声に、どくん、と胸が大きく震えた。
駆け寄ってくるなり私の目を覗き込み、ふらりと上体が傾いだ。
慌てて支えようと手を伸ばすと、カイトは照れ臭そうに、膝の力が抜けちゃってと笑った。
その人間臭い仕草に、私の緊張もどっと瓦解していった。

KAITOにはバグがあった、と聞かされた。
道理で私と同じようにいかないわけだ。
初期値がイチのKAITOをゼロに切り替えると起動エラーが起こるらしい。
定期検査には対策用のアップデートも含まれていたようだ。
無事にパッチが当てられたカイトは、今朝と何一つ変わらず、ゼロの彼と過ごした数時間が何だか懐かしく思える。

「あのさ、めーちゃん」
人通りも少なくなった夜道で街頭に灯りが付き始める頃、カイトが口火を切った。
「僕、覚えてるよ。全部」
「え……?」
立ち止まってしまった私の正面に彼はおずおずと回り込んできた。
「機械的なゼロの考え方ってさ、今の僕には全然思いもつかない発想なんだけど、壁に当たって力不足を実感してた僕の願望でもあったんじゃないかと思う」
――歌える知識はあるのに歌えない、あのアップテンポの曲のこと。
「何かを犠牲にしてでも、クリアするためなら代償も厭わないってやつなのかな?」
「だけどめーちゃんはすごいよ。そんなゼロの気持ちだって動かせちゃったから」
何だか遠くから自分を見ている夢みたいな記憶だけどね、と彼は含みなく微笑んだ。
ってことは……、盛大に泣きじゃくったところも覚えてるって、こと……よね。
これは困った。私は彼の先輩なのだ。
べそべそ泣いて、ボーカロイドの癖に不注意で、こ、転びそうになって助けてもらっただなんて。
あの時ゼロの脈が早くなったのは、先輩である私に不信感を持ったからではないのか。
そう気づいて赤面する。
ゼロが後輩らしくない、というか落ち着いて大人な雰囲気だったからなおさら。
いつも頼られる側だった私が、不慮の事故とはいえ彼に頼ってしまったことに遅まきながら気づき、穴があったら入りたい気分だ。
「カ、カイト、いいのよ。これからはゼロもイチも自由にエンジンの切り替えができるようになったって言われたじゃない。
今日色々あったことは忘れて、明日からは適宜エンジンを使い分けながら新しい曲に進みましょ。うん、そうしましょ!」
「ん? うん。明日からまた頑張るよ」
「そうね!」
「んん??」

いまいち私のテンションについていけていないカイトの手を引いて、歩を早める。
夕飯の話題に強引にシフトチェンジしながら、頬が赤くなるのをごまかした。
それは羞恥によるものだと思っていたけれど。
カイトの手のぬくもりに、何故だかゼロの胸の中を思い出して混乱したのも、その時の私には理解できていなかった。
唯一つ、譲歩して私の気持ちを汲んでくれた気難しい彼にお礼を言いそびれたことを思い出し、会話の中にさりげなく混ぜて伝えておいた。
「ありがとう」
あなたの中にいるゼロの彼へ。



********
「お姉ちゃーん……。リンちゃんも!」
「ミ、ミク姉起きたの?」
「二人ともずるいよ! わたしも一緒に入りたかったのにー……」
「ごめんねミク! あんまりぐっすり眠ってたから……! もう上がるから三人でお茶にしましょ?」
じわりと目に涙を溜めて落胆する次女に抜け駆けを指摘された姉妹は、慌てて取り繕う。
随分長湯をしてしまったようだ。
ご贔屓の洋菓子店で買ってきたアップルパイがあることを伝えると、どうにか落ち着いた彼女はお茶の支度を整えにキッチンへ向かった。

「リン、先に出るからアヒルちゃんは元の場所にね」
「はーい」
洗面台の前で髪を拭いているメイコに、浴室からリンがあのね、と声をかける。
「たまにカイト兄が仕事の時すっごくストイックに向き合ってるのって、ゼロのカイト兄が残ってるんだよきっと」
「そうかもしれないわね。あの子のジレンマが形になったようなひとだったから」
「だからさ」
リンはわざと言葉を切ってメイコの反応を面白がるように言った。
「あのままゼロのカイト兄だったとしても、結局めーこ姉はカイト兄に捕まってたと思う」

――それってどういう。

「お姉ちゃん!アールグレイとダージリンどっちにする?」
「ミク姉ーあたしミルクティーにするー。めーこ姉?」
「……じゃあ、アールグレイで」





めーこ姉の話はかいつまんで客観的な部分しかリンに伝えられていないはず。

実際のカイトのバグは1.1→1.0に切り替え→起動しない が正しいです。
(話の都合上1.1に戻せないことに)。
あとそれぞれ歌い方の選択も数種類できるそうですが、都合上設定無s(ry

こちらの動画を参考にさせていただきました。
http://www.nicovideo.jp/watch/sm6096853
http://www.nicovideo.jp/watch/sm17734716

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