※このお話の設定
KAITOやMEIKOというキャラクターは世間にとっての概念(認知されることによって存在する)
→V1もV3も同一人物(V3が出たからと言ってV1が上書きされたわけではないので)
従来のV1にV3のデータベースが追加される→可能性が増えてウマー



「heavy girl」
昔、失恋したMIRIAMが言ってたの。夜通しヤケ酒に付き合って、泣き言を聞いてたときにね。
相手は人間の男の人だったから。
そうね。立ち直るまで半年はかかったかしら。言い得て妙だわ。


「二重の意味で」


My fair little heavy lady


ひんやりした風が、雨の名残を残しつつ前髪を吹き上げていく。
一刻前までの湿っぽさは拭い去られ、雲の切れ間から群青色の空が顔を出していた。
午後からは暑くなるだろう。

「よかったねえ。これならお外で遊べるね」
先端が濃い緑の傘を片手に振り振りミクは長姉を見上げる。
傘の布地は柄に近くなるほど白くグラデーションで彩られている。
雑貨店で一目ぼれしたというそのネギ……傘は先月新調したばかりで、今日は満を持してのデビューの日だった。

「遊びにって、釣りでしょ? 川は増水して危ないから明日にしたらいいのに」
「あらカイト聞いてないの? 行先は神社らしいわ」
神社とな。いつの間に信心深くなったんだイエローズの二人は。
「あのね、ザリガニ釣るんだって。さっきスルメ買ったの!」
え、何。めーちゃんとおつまみ選んでたのはそういうことか。
半分は私のお酒のアテだけどね、とメイコは笑ってみせる。
「ミクも行くんでしょ?」
「えっと……。どうしよっかな。ザリガニ触ったことなくてちょっと恐い」

当の双子はきゃいきゃいと傘を振り回しながら遥か前方をじゃれまわっている。
水たまりに傘を突っ込んだり飛沫を跳ね散らしたりと元気なものだ。
車が通らない道でよかった。

近所のスーパーまで買い物に行った帰り、ミクとメイコはそれぞれ細々したエコバッグやらレジ袋やらを両手に提げ、 僕は嵩張る荷物と食材と、傘を二本抱えている。
華奢なワインレッドと男物の紺。
絵にかいたような幸せ家族っぷりに胸の奥がほわっと温かくなる。
安らぎと充足感と、ずっとこのままでいたい気持ちといつか変わってしまうであろう一抹の切なさと。

と、急旋回したセスナ機のごとくおてんば娘が駆け戻ってくる。
後を追う中学生男子は、水を引っかけていた傘を律儀にたたんでからのスタートで遅れを取った。
メイコとミクを抜き去り僕をターニングポイントにして生き物のように跳ねる白いリボンが再び視界に…… 映る代わりに太腿と腰に軽い衝撃が走る。
「うわっと!」
「カイト兄ごめーん」
リンはリスザr……リスのような身のこなしで僕の脚やベルトに、と、と、とん、とつま先を引っかけ、たちまち僕の頭を抱え込んだ。
サンダルを脱ぎ捨てているのは僕に対する最低限の礼儀なのかもしれない。

「へっへー。あたしの、か・ち!」
「おま! 卑怯だろそれ!!」
肩車の上から見下ろすリンを悔しげに睨むレンだが、さすがに追いかけて登ってくるほど冷静さを欠いているわけではないようだ。
「リンちゃんいいなあ〜」
ミクが羨望のまなざしで僕の頭上に手を振った。
リンがぶんぶんと得意げに左手を振りかえすのが感触で分かる。
ミクはけっして運動神経が鈍いわけではない。
が、少々おっとり気味なのと、長いツインテールが錘(おもり)になっている(本人は認めたがらないが)せいでアクティブとはほど遠い。
もっともパワフルかつコンパクト軽量型の遊撃専門双子と比べては気の毒だ。

おもむろに、いたずらな笑みを浮かべたメイコが妹の背中を柔らかく抱きしめた。
うおおおおこっちの方がいいなああああ!!
と、内心萌え滾るが、クールな僕は表情には出さない。うん、出てないはず。
その細い腰に回された彼女の腕はひょいっとミクの身体を持ち上げる。
二人の間に隔たる約10pの身丈の差が殆どなくなり、目を丸くして頬を染めるミクと、嬉々とした笑顔のメイコの頬がくっつきそうに並ぶ。
おまけの一押しで、ぴんとつま先立ち。
これで僕の目線上には赤青緑3人の顔が揃うこととなった。
ぱっと顔をほころばせる妹たち(頭上の金髪娘は見なくたって分かる)。
ついでに僕とメイコも目で笑いあう。
そして。

「レンも来る?」
「そんなこっぱずかしい茶番に付き合えるかー!!」

敢え無くレンにはふられてしまった。
僕らから距離を取り、リンとメンチを切りながら文句たらたらに歩き出す。
しかし悲しいかな、舌戦の相手は彼の片割れその者である。減らず口なら負けてはいない。
「だからレンもアタシみたいにさー」
「ぜってーやだね!」

白熱する口げんかに興奮したリンが胸のあたりをどすどす踵で蹴りつけてくるのに気を取られていて、 メイコの鋭い声が飛ぶまでそれに気づけなかった。
「レン!!」
「レン危ないっ!!」
同時に、軽口が飛び出すはずだったリンの口からは悲鳴が上がった。
「え?」
長雨をたっぷり吸った土手道は、後ろ歩きのレンのブーツに踏み砕かれその小さい体を、増水したカフェオレ色の流れの上に放り出す。

大丈夫だ。間に合う。

僕の頭上から飛び降りようとするリンを「投げ」た。
その勢いをバネにしたまま土手を滑り降りる。
背後からはリンの抗議の声が微かに耳を打つ。
「レン! こっちだ!」
足元を泥に埋めながらも着地し、レンのベルトを引っ掴み陸地へと押し上げた。
フットワークの軽い弟は、転ぶことなく足元から着水したが、濁流に足を取られ僕の方へと流されてきたところをうまくキャッチできたのだ。
這う這うの体で道に上がり終えると、さすがのリンも顔を青ざめさせていた。
ミクは呆気にとられたように僕らを見ていたが、やがて、二人とも無事でよかったぁ……!と涙をにじませた。
そんな妹たちを両手に一人ずつ抱きかかえているメイコに、僕はにへらっと笑ってみせる。
「めーちゃんさすがです。ナイスキャッチ」
「非常事態だもの。仕方ないわね」
ため息で返すメイコは堂々としたものだが、内心僕は冷や汗をかいていた。
メイコを信じていないわけではないが、一歩間違ったらリンにも怪我を負わせていたところだったのだ。

「カイ兄……、オレ、ごめん……」
ズボンの腿の辺りから下を泥水で染めながら俯いたレンが沈痛な面持ちで呟く。
「いいって。分かってんだろ?」
こくりと頷くレンの頭をぽんと叩く。
弟は聡い子だ。僕やメイコが叱責しなくても、次はやらないだろう。
「レンー! よかった!!」
駆け寄ってきたリンはレンに抱き着く……かと思いきや、勢いよくズボンのポケットに両手を突っ込む。
「おわぁっ!?」
「よし! DSもケータイも無事!!」
「てっめえぇぇぇ! まずオレの心配しろよな!?」
「カイト兄ありがと♪ ポ○モンのデータ消えたらどうしようかと思った!」
「消えろ消えろそんなもん!!」

あれ、この子らちゃんとお利口だったはずだよね……?
育て方を間違ってないか泥まみれの道端で反芻し始める僕に、てこてこと近寄ってきたミクがハンカチを差し出す。
「お兄ちゃんお疲れ様。すごいね! さすがお兄ちゃんだよ」
ミクはいい子だ。やっぱり育て方は正しかった!
「ところで」
上の妹は、放り出された買い物の戦利品をかき集めるメイコを振り返り言った。
「お姉ちゃんはけっこうな力持ちさん?」


ひとに生み出された存在でありつつも、僕はひとが少し苦手だ。
それは結果主義の塊であったり、一方的な執着と放棄だったり、更には僕らに付与された感情がそれに疑問を持つほどの出来栄えであることにジレンマを覚えてしまうからだ。
束縛と自由。服従と反抗。どちらも選び取ることができるが、どちらを選んだところで、結局はひとの手の上で踊らされているだけに過ぎない。
それは成果物に対する全能の権利を振りかざすひとへ対する嫉妬か。
もしくは、やっかみに近いのかもしれない。
ボーカロイドに生まれた誇りを胸に抱いて歌い続ける同胞や、その喜びを全霊で表現し高みを目指す後輩たちに対する。

……。
まったく。たまに唐突にこんなことを考えだすと思考がひっぱられて際限なく落ち込んでしまう。
こういうネガティブな方向に理屈っぽいところが根暗だ、と他のカイトや仕事仲間たちにからかわれてしまうのに。
家族には、特に「お兄ちゃん」の信頼を築いている下の子たちには見せられないな。

「カイト、今ちょっと時間ある?」
悪い癖を好物で振り払おうと、風呂上がりの首元にタオルをかけ、冷凍庫を物色しているところに声がかかった。
「なになに? なんか楽しいこと?」
涼やかなアルトに手招きされて部屋に入ると、何のことはない、不定期メンテの通知がきていた。
くわえたソーダアイスが垂れ落ちないようにPCのモニタを覗き込む。
「なーんでいつもめーちゃんのとこばっかりくるんだろ」
「大方連名で同じ内容のお知らせなんだから、一家に一通代表して送ってきてるんじゃない?」
「黒電話の時代か!」

メイコや僕が実体として稼働し始めてから、早いもので間もなく10年近く経つ。
摩耗したパーツは随時取り替えてはいるものの、基本的には僕らは初期型のボディを騙し騙し使い続けていた。
しかし、開発時期から年月が経ち、世間に流通するOSも代替わりしてきたため、フルモデルチェンジも推奨されている。
元々ボーカロイドは同じキャラクターでも個体によって性格や見た目の微妙な違いがあるので、一見しただけでは違いは分からないが、
V3データベース搭載に合わせて次世代ボディに総とっかえしたMEIKOやKAITOも多いと聞く。
今回の通知も、元パーツの耐久テストとその結果によっては部品交換とあるが、文末には現行部品の製造終了の可能性があるため、V3モデルへの移行を推奨と大きく書いてある。
「えーと……。明後日の午後なら二人とも空いてるみたいだから、そこで予約入れておく?」
スケジュール帳をパラパラとめくってメイコが呟く。
「そうだね。うーん……2、3時間で終わるといいんだけど」
「カイトは本当にラボに行くのを渋るわよね」
「いや〜ある意味実家ではあるんだけどさ、なんかいい思い出なくてさ」
苦笑いする僕を尻目に、私は____さんに会うのを楽しみにしてるんだけどね、と微笑んだ彼女はさっそくメールの返信を打ち始める。

見た目は人と変わらない(もちろん真っ青な髪の色は天然には無い色なので奇異の目で見られることはあるが)。
スタイルだって普通、どころか仮にも芸能目的で生み出された存在である以上、平均以上のビジュアルを与えられている。
柔らかな肌に自律可能な神経系統。会話や思考どころか成長度合いによって個性まで表現できる疑似脳。
バッテリー併用とはいえ飲食物も摂取できるし、血も流れている。
ウィルス由来の風邪だってひくし怪我をすれば時間経過とともに自然治癒する。
しかし人工物である以上、一皮剥けばそこには人体と全く別のもので構成された内部器官が存在している。
その多くは柔らかく、なるべく人体に近いものを誂えてあったが、人形が人間のように振る舞うには有機物だけでは足りなかった。
魂の重さの代わりに、金属やら化学物質やらの無機物が詰め込まれた身体。
その物理的存在感は大きい。

「めーちゃん」
メールを送信し終えた彼女が振り返るより先に、座っていた椅子から抱き上げた。
「いきなり何?」
抗議の声を上げるメイコは、振り返った先――僕の口元のアイスの棒を抜き取りゴミ箱に落とす。
「僕はね、別にまだこのままのボディでいいと思ってる」
戸惑うメイコを抱えたまま、彼女のベッドに腰を下ろした。
ぎい、とスプリングが軋む。
「不便だと思わないの?」
「不便だなんて! むしろこのままの方が……」
僕の腕から逃れようと膝の上でじたばた抵抗していたメイコは、あ、と動きを止めた。
「MIRIAMの逆ってこと? 呆れた……」
MIRIAMがどうしたんだっけ?
引退したV1の同僚のことを思い出していると、その隙にメイコはするりと逃げ出し、隣に腰をかけた。
また、きい、とベッドが鳴く。
「カイトはまだいなかった頃の話だけどね」
そう前置きして、彼女は、先輩の失恋話を聞かせてくれた。
束縛がきつい、と人間のミュージシャンに振られてしまった金髪ロングのおねーさんは、私は心も体も重い女ね、とメイコにこぼしたのだった。
あのストイック(がきんちょの僕にはそう見えた)な彼女にそんなエピソードがあったとは。
てことはつまり。
「うーん……。確かに。確かにそうだよ。MIRIAMの逆だ。僕はV1だからこそ変わりたくないって思ってrぐはっ」
しつこく抱き着きすぎたのが悪かったのか、肘鉄をお見舞いされてしまった。
今日はガードが固いな! ツンツンだ。
「だってさー、ミクが来たときの衝撃は忘れないよ」
「言われてみればそうね。人間かと思っちゃったもの」

初音ミクと名付けられた緑の髪の愛くるしい少女が我が家に来た日。
妹の誕生を心待ちにしていたメイコは一目見るなり可愛い可愛いを連発し、その場で姉バカモードに突入した。
熱烈歓迎を受けたミクも、ぎこちないながらもじきに打ち解け、いささか過度なスキンシップにも嬉しそうに応えている。
すっかり放置され半泣きだった僕は、不意に名前を呼ばれて仰天した。
「カイト、この子……本当にボーカロイドかしら??」
グレーのノースリーブの脇に差し込まれたメイコの細腕は、かなりの毛量がありそうな少女を人形のように抱き上げている。
うろたえたメイコは僕にミクを渡し、身上書(取扱説明書)を探し始めた。
黙って突っ立っている男に突然身を委ねることになった少女は困ったような顔をして僕を上目づかいで見上げる。
その身体はメイコの言葉通り驚くほど軽く、
「……君、中身足りてる……?」
「はい。ミクおうた歌えます!」
それがV2の後輩と初めて交わした、記念すべき第一声だったのだ。

「え? ウソ……よ、42キロ!?」
「……42貫の間違いでなくて?」
「この平成の時代にそれはないと思うわ」

僕たちの家に来た初音ミクは公式発表通り、人間の女の子(の中でも軽い方)らしいプロフィールだった。
V1である僕たちは唖然とした。
僕は成人男性の平均体重の約2倍、メイコはそこからマイナス10〜15キロといったところだ。
人型アンドロイドが人のように振る舞うためにはそのくらいの代償が必要だったと聞かされたのに、V2の目覚ましい進化はにわかには信じがたい話だった。
CV-02である鏡音リンが発表されたことで、ようやく僕とメイコはエンジンの違いだけでなく、ボディ性能の違いについても自覚せざるをえなくなったのだ。


「とにかく! めーちゃんをだっこできるのは僕だけなんだぁぁ!」
「それもどうかと思う……」
メイコは泣きつく(ふりをして柔らかさを堪能している)僕を面倒そうにあしらう。
冗談めかして言っているが、これはゆゆしき事態だ。
僕らがV2や人間たちと同じ体重、筋力であれば、メイコが……メイコがよその男にお姫様抱っこされてしまう危険性がある。
神威とか神威とかあと神威とか。
「第一、私の意向はどうなるのよ」
「え?」
「カイトはそのままがよくても、私が軽量化ボディに変更したいと言ったら?」
「え、な、何で、そんな」
思いもよらぬ相方の裏切り宣言にあたふたしていると、メイコは仕方ないな、という顔をして、やおらヘッドボードの引き出しから携帯ゲーム機を取り出した。
「リンが貸してくれたの」
僕の疑問符はゲームの起動音に乗って踊り出す。なんでゲーム?
「いっぱい怪獣とか妖怪みたいなのを集めて旅をするんですって」
メイコが見せてくれたのはモンスターのステータス画面。
背中に武器を乗っけたカエルみたいなのが火を吹いている。
「リンが言ってたの。怪獣が進化して大きくなると、小さくて軽い怪獣よりスピードもパワーも増えるんですって」
聞いたことがある。相対性何とかって理論の。重たくなるほどスピードがでるとかなんとか。
でもゲームだからなあ。進化前よりステータスが下がったらメリットがないからなんじゃないのか。
「私もね、怪獣でいいんじゃないかなって」
メイコが画面から顔を上げ、僕に笑いかけた。
「ひょっとして昼間のこと?」
「うん。カイトはレンを助けに行ってくれたけど、リンも守ってあげなくちゃいけないもの」

あの時。
小柄で瞬発力のあるリンは当然のようにレンを助けようと飛び出した。
だが、濁流が荒れ狂う川の流れは速い。
リンが飛び込んで行っても足を取られてしまう危険性があった。
僕はすんでのところでリンを捕まえて、メイコの方に放り投げた。
ミクを抱き上げた状態だとしても、彼女ならミクを降ろす予備動作なくそのままリンをキャッチできると踏んでいたからだ。
その間僕は体内バッテリーを一時的にブーストさせ、移動速度と腕力を上昇させてレンを助け出すことができた。
力と速さ。
重厚なV1の機体能力があってこそだ。

軽量化されたV2の機体はエネルギー消費量も少なく軽快に動作することができる。
反面、底力がなくへばりやすい。
その点、V1である僕らは普段から馬鹿でかい燃料タンクと太い排気筒を持ち歩いているようなもので、非常時には多めにエネルギーを消費して瞬発力や持久力で戦えるようになっている。
有事の際に何度も弟妹達を救って来られたのも、このボディのおかげともいえる。

「めーちゃんはさ、守られるより、守りに行く……というか戦いに行っちゃう派だよね」
「もちろん」
だって長女ですから、と胸を張る彼女を守ってあげたいと思うのは、やっぱり僕の我儘なんだろうけど。
だからこそ、余計にV1のボディはやめられないなと思ってしまうのである。
この調子だとメイコも軽量化する意思はなさそうだ。

「ちょっと、笑わないでよ!」
無意識にこぼれた笑みに、メイコは僕が呆れたと勘違いしたようで、慌てて取り繕ってくる。
「そりゃあ、私だってルカみたいに外見と数字がつり合ったような身体に憧れることもあるわよ。でも、私は今のままでいいの」
「ミクたちのために?」
「そうよ」
「そっか」
「……」
あからさまにしょんぼりしてみせると、彼女は、はっと気まずげな顔になる。
「……」
「……。か、カイトもそうでしょ?」
「僕は、めーちゃんも……守りたいんだけど」
「……、分かっ、てる……。カイトのこと、頼りにしてるから」
「もう一回お願いします」
「〜〜〜!!」
改めて突っ込むと照れるんだよなあ。


本当は分かってるんだ。
僕らは声が命で、仮初めの感情やら身体やらは全部おまけでしかないってこと。
だけど、後輩やらライバルやらが出てきたら動揺するし、新しいデータベースやボディに移行する流れには不安もある。
そんな中で、僕と彼女が同じV1としてやってこれたことは確かな事実。
どれだけ時代が変わろうとも、歴史は確固として刻まれ続ける。
だから、もう少しだけ甘えていたいんだ。
日本語ボーカロイド界のアダムとイブって立場に。
きょうだいみんながV3化で足並みを揃えると言われれば余計にね。
もっとも、そんなこと彼女に言えば、さっさと新しい世界に目を向けなさいって言われそうだけど。



後日。
「すごいわカイト! V3のボディは軽量チタニウム合金とポリカーボネートを新たに採用し機体の表面にはUVカット樹脂をコーティング及びレーザー反射機能を搭載更にワイヤーは強化ステンレスにグレードアップらしいの!」
「なにそれこわい」(どこのガンダムだ!!)

「しかも耐久性はもちろんエネルギー効率重視でV1の75%の動力で約1.5倍のパワーが出る上に充電時間は48%短縮みたい」
「なにそれすごい」(最近の軽みたいなもんか!)


心が揺れ動く今日この頃……?
「ちょっと待って!僕ら一応表面上は生体部品で出来てるはずだよね!?」





END







赤いボディに青いバックランプのガラケーがいまだに現役でスマホに乗り換えられません。
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