些細なことでも役に立ちたいのは、必要とされる存在でいたいから。
お礼を言われるってことはここにいてもいいってことだよね。
寒かったら暖めてあげる。僕のことなんかいくら使ってくれたっていい。
だからお願い。ここにいさせて。


【愛されるということ、応えるということ(正)】


「ねえ、覚えてる?」
「う……うん…」
「ごめん、突然思い出したものだから。無神経だったかしら」
「…大丈夫。昔のこと……最近たまにしか夢に見なくなった」
一時期に比べれば乗り越えられたと思うよ、と下がり眉で苦笑する男に、メイコは少し視線を落とした。
仕事は確かに増えてはいるが、ピーク時に比べると緩やかな平行線を描いたままだ。
本業の歌だけでなくキャラクター性も含めて勝負をしていかねばならないこのご時勢、決して楽観視はできない。
ただ、後続の弟妹たちほどの賑わいはないものの、二人ともそれなりに不動の地位を確立していた。
停滞し、先の見えない時間をだらだらと消費していたあの日々が嘘のように。

「だいじよ」
「え?」

「……私が言いたかったのは、あんたはかけがえのない存在だってこと。
 嫌いになったりなんかしない。あんたの代わりなんていないんだってことだったの」

それはある日の子どもたちが寝静まった後の晩酌の時間。
ワインや日本酒が煩雑に並べられたテーブルを挟み、グラスをもったままぽかんとメイコを見ていたカイトの頬が、
アルコールとは違う理由でじわじわと赤く染まっていった。

「…もちろん。分かってる。めーちゃんはいつだって僕にそう接してくれてたじゃない。
 ……でも、やっぱり面と向かって言われると、少し照れるね」

手を伸ばしてメイコの髪の毛の先をそっと摘んだカイトは、ふわふわと掴みどころのない顔で幸せそうに微笑んだ。
随分強かさを身につけたものだ、とメイコは満足そうに目を閉じた。


**********

玄関のドアが開く音がした。居間の観葉植物に水をやっていた僕の耳は敏感にそれをとらえる。
間違うはずもない。帰ってきたのは大好きなあのひとなのだから。
「めーちゃん!お帰りなさい!」
小走りで出迎えた僕に、ただいま、と返しためーちゃんはブーツを脱ぐ手を止めて、くすぐったそうに笑った。
「ほっぺた、汚れてるよ」
頬に伸ばされた白い指は、植物の世話をしていたときに付着したのであろう泥を優しく拭い去った。
その指は冷たく、僕は次にやるべき仕事を思い出す。

「外、寒かったでしょ? コーヒー準備するから着替えてきて!」
手に持ったままだった如雨露をその場に置き、一目散に台所へ向かった。
ええと、まずはお湯を沸かして、その間にカップを温めて……。
コーヒーの粉はどこだったかなと戸棚の中を物色していると、ひゃあっとめーちゃんの悲鳴が聞こえてきた。
「えっ? どしたのっ!?」
振り向いた拍子にがしゃんという甲高い音。あああしまった……!
めーちゃんの大切にしていたコーヒーカップが粉々だ。
それでもまずは彼女の方が心配だった。
声の聞こえた方向を頼りに脱衣所へ向かう。
もわもわと立ち込める湯気の中、立ち尽くすめーちゃん……どうやら無事なようだけど……。

「あ……!!お風呂のお湯……」
ざあざあとバスタブの淵からあふれ出す温水は、用を成すことなく排水溝に流れ込み、
蛇口を全開にしていたため、多すぎた水量の一部は、脱衣所の床にまで染みを拡げる事態となっていた。
風呂の掃除をして湯を溜める際、タイマーをセットするのを忘れていたのだ。
おろおろと立ち尽くすだけの僕を尻目に、一足先に我に返っためーちゃんは、
ストッキングのままじゃぶじゃぶと浴室に突入し、蛇口をきゅっと音が鳴るまで閉じた。

「……とりあえず、床を拭きましょうか」
「は、はい……」

ぎゅっと唇を噛んでいたのに。僕を振り返ったその目を見れなかったのに、怒られなかった。
めーちゃんが放ったタオルで水気を吸い取る。
てきぱきと片付けていくめーちゃんとは裏腹に、のろのろと手を動かしてしまう。
謝らなくちゃ。失敗したり悪いことをしたら、きちんと「ごめんなさい」を言わなければならないのに、
声が出せなくて、目が合わせられなくて、無言のまま、俯いたまま掃除は終わり、差し出された手にタオルを渡した。
それが洗濯機の中に放り込まれるのを見て、もう一つの後片付けを思い出した。

「め、めーちゃん…あの……」
「台所で音がしたけど、カップを割ったの?」
「う…うん」

めーちゃんには何でもお見通しだった。
ふう、とため息をついためーちゃんは、じゃあついでに片付けちゃいましょ、と明るく言って台所に向かう。
それを慌てて追いかける僕は、結局めーちゃんに片付けを任せてしまった。
「割れた破片で怪我をすると危ないから」とやんわり断られてしまったのだ。

せめて僕に出来ることを、とカップのかけらを紙に包み終わって手を洗っためーちゃんに、淹れたてのコーヒーを渡す。
ありがとう、とそれでもにっこり笑ってカップを受け取っためーちゃんは、熱い液体を一口飲むと、僅かに顔を顰めた。
「あ、えと、おいしく…なかった……?」
恐る恐る尋ねる僕に、そんなことないわ、と歯切れ悪く答えためーちゃんは、
じっと顔を見つめたままの僕の視線にたじろぎ、迷った末に、もうちょっと薄い方が好みかもしれないわね、
と苦笑いしてみせた。
何だか嫌な予感がして、一言断りを入れ、カップに口を付けた。…口が曲がりそうなほど苦い。
「ええと……」
出しっぱなしだったコーヒー豆の袋の裏を見る。間違えた!…大さじ2杯のところを3杯すくっていた。
「ご飯のあとでカフェオレにして飲めばいいじゃない」
めーちゃんが僕の髪を軽く撫でる。

「それじゃ、夕ご飯の支度するから、バトンタッチね」
部屋で歌の練習でもしてなさい、と台所から追い出されてしまった。
自室までの階段を上る足取りが重い。
何だかもう色々最低だ。上手くいかないことばかりで、やる気も出なかった。
結局僕は夕食の時間まで、ベッドに寝転がったままで、めーちゃんのことばかり考えていた。


「あのさ、あんたに仕事が一件入りそうなんだけど」
会話をする気になれなくて、マナー違反だけど付けてしまったテレビの雑音を遮ってめーちゃんが話しかけてくる。
「仕事?」
俯き加減でオムライスを口に運んでいた僕は、めーちゃんの顔をおずおずと見上げた。
「そう。私が今契約しているプロデューサーの知り合いの方でね、
 カイトのサンプル音源を聴いて興味を持ってくださったみたいで」
「本当に? じゃあ僕も朝からめーちゃんと一緒に仕事に行けるの?」
「うーん……。それがね…」

少し明るさの戻った僕の声をめーちゃんは言いづらそうに遮る。
「仕事の依頼主のプロデューサーさんは、遠方にスタジオを持っていらっしゃるの。
 だから、10日ほど泊り込みで、一気に収録してしまう予定だって」
 
「そ、うなんだ……」
めーちゃんは、歯切れ悪く返事をした僕の態度に少し顔を曇らせたけど、
どう、やってみない?と励ますように目を覗き込んできた。

「え、と。ちょっと自信がないかも……」
「え……」
ちょっと迷ったけど、自分のためだと分かっていても、断るしかなかった。
だって、めーちゃんと何日も離れるだなんて絶対に耐えられないから。
言い訳したことは確かに本当のことだけど、一番重要なのは、めーちゃんと一緒にいられないことだった。

「僕は…まだあんまり人前で歌ったことないし、もう少し練習が必要だと思うんだ。
 もっと基礎を作ってからじゃないと仕事を取ったりしてもうまくいかないだろうし。
 ほら、泊り込みってことは慣れない環境だし尚更だよ。だ、だから初めての仕事は日帰りからがいいなー、なんて……」
あたふたと理由を並べ立てると、そっか、と寂しそうに笑っためーちゃんは、それ以上追及してこなかった。


いつもは寝る時間になってもなかなか寝付けない。
ずっと胸の奥に残ったしこりがとれなかった。原因は何だろう。何だろう。
思い返すと、今日はめーちゃんに迷惑をかけてばっかりだった。
物は壊すし、床は濡らすし、コーヒーを淹れることすら失敗するし……。
めーちゃんは優しかった。でもそれに甘えてミスを忘れられるほど、僕も子どもではない。
明日もこんな気持ちでいることを考えると、めーちゃんとぎくしゃくした関係が続くことを考えると、憂鬱になってくる。

結局僕がすべきことは勇気を出して謝りにいくことだろう。
一度考え出すと、そう結論を出すまでにそれほど長い時間はかからなかった。
めーちゃんはまだ起きているかな、随分遅い時間になってしまったけど……。
そっと部屋を抜け出し、めーちゃんの部屋まで足音を忍ばせて向かった。
何て切り出そうか、今日はごめんね、からかな、それよりも遅くにお邪魔します、が先かな。

些細でありつつも重要なことに悩みながら、ノックをしようと右手を上げたときに、
部屋の中から話し声が聞こえることに気が付いた。
めーちゃんと男の人の声。通信をしているのだろうか。
盗み聴きするつもりはなかったのだけれど、会話に混じる“カイト”の単語を鋭い聴覚がとらえてしまった。
一体何の話なんだろう。心の中でめーちゃんごめん、と唱えながらドアに耳を近づけた。


「――で、仕事の成果は上がっているのか?」
「いえ……残念ながらまだ」
「一件も?」
「はい…。もう少しで契約までたどり着いた商談ならあるのですが……」
「もう少しって言われてもねぇ…。理由は? 何で破談になった?」
「そ、れは……」
「………」

「MEIKO、社会のルールを教えるために君にKAITOを預けていた期間はもう終わっているんだ。
 実験成果はもう取れているのだから、KAITOは実際に契約を取ってVOCALOIDとしての役割を担うステップまできている。
 これ以上君が甘やかしていても彼のためにもならないはずだ」
「分かっています。甘やかしてなんか…いません」

「こちらとしてもあまり時間がない。このままだとKAITOの開発費は赤字だ。
 これ以上採算がとれないなら近いうちに廃棄処分に――」
「待ってください! 彼は伸びる可能性を持っています…!! お願いです…時間を、もう少し時間をください。
 カイトはじきに芽が出るはずです。ちょっと遅咲きなだけなんです。だから―――」


目の前が真っ暗になった。
心臓の音がうるさすぎて、思考が音を立てて巡るせいで、それ以上の会話は耳に入ってこなくなった。
僕が、廃棄処分? めーちゃんが僕を庇っている?
どういうことだ。どういうことなんだ。

この生活はひと時のものだった? 僕はここにはいられなくなる?
僕は、めーちゃんと離れ離れになって、“し”ぬのか?

いつかは仕事をもらえるものだと思っていた。
めーちゃんに頼りっぱなしの生活じゃなくて、一緒に家計を支えあって、生活を楽にして、
立派に仕事をしてめーちゃんに一人前だって認めてもらって。
だけど、その仕事は待っているだけじゃ入ってこなくて、だからめーちゃんが探してくれていて、それを僕は蹴った。
めーちゃんに甘えていたいからという理由で断った。
めーちゃんのあの時の悲しそうな顔。
僕は馬鹿だ。大馬鹿だ。

「く……っ!!」

喉の奥が苦しい。目の奥が熱くなって視界が滲んだ。
嗚咽が漏れないように口を塞いで、めーちゃんに見つからないように部屋に戻った。

ベッドに倒れこんだ瞬間、今までの自分の甘さに、情けなさに、堰を切ったように自己嫌悪と涙があふれだした。
僕はあまりに幼すぎた。何もできない無力な子どもだった。
めーちゃんを助けるなんて大口を叩いて、ままごとのような手伝いをし、めーちゃんの手を煩わせて、
お膳立てしてもらった仕事へのチャンスも、生意気な減らず口をきいてふいにしてしまった。

僕は一体めーちゃんの何を守れていたの?
めーちゃんは今まで僕のために何をしてきてくれていたの?

今頃気付いてももう遅い――。



*****

「カイト、いい加減に開けなさいって」
僕を呼ぶ声が聞こえてくるような気がするけれど、敏いはずだった僕の耳は曖昧にしかそれを認識できなかった。
自信がない。僕の大好きなあのひとの声のような気がするだけ。

がしゃがしゃと重たい音が聞こえた気がして、次の瞬間視界が真っ白に染まった。
ずっと被っていた布団を剥ぎ取られ、眩しさに目がくらんだのだとワンテンポ遅れて認識する。

久しぶりに見た大好きだったひとは、目を潤ませ、怒ったような顔で僕を見下ろしていた。
「めー、ちゃ……?」
「心配したのよ。ほっとくにも限度があるわ」
額に掌を宛てられ、熱がないことを確認しためーちゃんは、その手を僕の頬に滑らせ、ぎゅっと目を瞑る。
唐突に寝巻き代わりのシャツを引き上げられ、胸や腹、腰を撫で回された。
くすぐったかったのでやめてほしかったけれど、長い間寝たっきりのだるさと足りていない栄養のせいで、
抵抗すらできなかった。

「こんなに弱るまで何考えてたの? 私と顔を合わせるのも嫌なくらい不満があるのかしら」
違うよぅ、と情けなく掠れた声で返事をしたら、頬をぎゅっと抓りあげられた。
「痛い痛い!」
抗議の声を上げると、手を離しためーちゃんは、僕の枕元に腰掛け、くしゃくしゃになった僕の髪を梳いた。


めーちゃんは何も変わらなかった。
僕はどこかに行ってしまいたいと思って逃げ続けたのに、あっけなく捕まってしまった。


「理由。話してちょうだい。同居人として私には知る権利があると思うんだけど」
「う……うぅ…っ!」

丸二日と17時間、部屋に引きこもり続けた僕は、人恋しさに、全部ぶちまけてしまった。


「ごめんなさい。ごっごめ…な、さい……っ! めーちゃ、に、嫌わ、れるくらいなら、いらない…存在なら!
 僕、なんて、しんだ…ほ、がまし、だってっ……!」
「私があんたを嫌うの?」
「だ、だってっ! 僕は、な…にも、できて、なくて……! こ、いうの、ごくつぶし、って、言うんでしょ……?」

頭を撫でてもらいながら泣きじゃくる僕に、めーちゃんは無言で唇を引き結んだままで、
ああ、もう本当に駄目かなと覚悟をした。
決めた。もう決めた。めーちゃんが僕の言葉を肯定したならば、潔くしんでしまおう。

「あんた誰よ」
「ふ……ぇ……?」

何だそれ。
予想外の言葉に目を瞬かせる僕を、めーちゃんはぐいっと抱き起こした。
寝たきりだった姿勢から視界が反転し、血流が乱れた。
頭がぐらぐらするので、力の入らない腕で身体を支える。
僕と向かい合う姿勢になっためーちゃんは、僕の顎を引き、無理やり目を合わせた。
「カイトはいつも私のご飯おいしいって、たくさん食べてくれるのに、わがまま言って引きこもってるあんたは誰なの?」


「挙句の果てに私の好きな人に向かって暴言吐いたり、しねとか言わないでくれない?」


「え、あ、あの……?」
言葉の意味を考えて動きの止まったところを、軽く腕を引っ張られた。
体力やら栄養分やら心の余裕やら、色々足りていない身体は手加減無しでめーちゃんに圧し掛かる。
重たいはずの僕の上半身を抱きとめためーちゃんは、赤子を抱くかのように僕をあやした。

「嬉しいの。ずっと一人で暮らしてたから。家族ができたことが。守ってあげたい人ができたのが、嬉しかったの」
耳元でぼそぼそと囁く声が、水が流れ落ちるように、すうっと僕の中に染み込んできた。


めーちゃんは僕のことが嫌いじゃなかった?
こんなにいっぱい迷惑かけても、見捨てられたりしていない?
僕はまだ生きていてもいいのだろうか。
僕にもまだ変われるチャンスがあるのだろうか。


「ね、僕はどうすればいいの?」
聞いてからしまった、と思った。いきなり人に答えを求めるなど、今から変わろうと思い立った奴のすることではない。

「そばにいて」

だけど、めーちゃんは違う答えをくれた。

「しにたいなんて言わないで。さっきの言葉、私自身を否定されるよりも辛かったわ。
 周りになんて言われようと、私とあんただけは“カイト”のこと好きでいればいいのよ」

それは同時に僕の欲しかった答えのヒントでもあって。

めーちゃんは今までずっとそう思って行動してきた。
僕は自分の置かれた状況を知って自棄になったけど、めーちゃんに引っ張り上げてもらった。
めーちゃんの気持ちを分けてもらった。
それじゃあ僕はどうする?

今やっと分かった。
気負わなくてもいい。マストで考えなくてもいい。きっと前向きに積極的に進んでいけるはずだ。
だって原動力があるから。“めーちゃんと”一緒に“カイト”のためを思って行動すればいいのだ。


めーちゃんにかけっぱなしだった体重を、腕を突っ張って軽減する。
代わりに彼女の身体を抱き寄せ、膝の上に引き上げた。これでおあいこ、半分こだ。

びっくりしたように見上げるめーちゃんとおでこをこつんとぶつける。
ありがとう、今はまだまだ情けない僕だけど、目標ができたんだ。
やっぱりめーちゃんが好き。めーちゃんが大好き。
めーちゃんのために独り立ちして、いつの日かめーちゃんを守れるくらいに成長するから。
心の中で宣言し、涙でぐちゃぐちゃの顔のままだったけど、満面の笑みで笑って見せた。


**********

がむしゃらに、一方的にカイトを守ってきていた日々が懐かしい。
いつ頃からか、この男に支えられ、助けられて乗り越えてきた出来事も増えてきていた。
お互いに頼り合い、励まし合う毎日の心強さを知った。
たくさん弟妹が増えてきても、擬似家族の温かみを覚えても、彼だけは特別なのだ。

だからといって、一方的に寄りかかるつもりはさらさらないけれどね。
ぱちりと目を開いたメイコは、寄せられていたカイトの手首を掴み、その指先をぺろりと舐め上げた。

「めっ!めめめめえちゃんっ!!何すんのさ!?」
一転して情けない声を裏返したカイトの顔が、今までの比ではないくらいぼっと赤らむ。
「何って…ポテトの塩が付いてたらやだなーって思って」
「つつ、付いてないよ!まだ封切ってないじゃん!よく見てよく見て!!」
塩が付いていない代わりにバニラの匂いがするなぁと指先をしゃぶりながら、メイコはにっと目を細めて見せた。

「…えー……うー…、めーちゃん。変な気持ちになるから止めて」
「正直すぎて引くわ。減点30」
「ひ、ひどっ!めーちゃんやっぱり僕のこと嫌いなの!?からかって楽しい!?」

「そうね。からかって楽しいのは確かだけれど」
そこで言葉を切ると涙目のカイトがおずおずと視線を合わせてくる。
その瞬間を狙って、真っ直ぐ正面から。

「好きよ」

「………」

何ともいえない表情で顔を顰めたカイトはがくりと下を向いて、あーだのうーだの言葉にならない呻きを上げた。
これは降参の合図だ。
後で覚えといてよ、と恨みがましい呟きに、受けて立つわ、と満面の笑みを浮かべ、手首に一つキスを落とした。



END


inserted by FC2 system