江田さん宅の「カイメイでトエト」の冒頭部をお借りしています。
未読の方はぜひ先に江田さん宅へ!!
メイコちゃんにとって、初めての新しい仲間がやって来ました。
だけど恥ずかしがり屋のメイコちゃんは、うまくお話しができなかったのです。
「はじめまして。君の名前は?」
青い髪の男の子は、にこにこ笑いながらメイコちゃんに手を差し出してきました。
「えっと、えと……」
「えー、トエトちゃんか! 僕はカイトだよ」
「えっと……うん」
ずっと赤い顔で俯いていたメイコちゃんは、うまく自分の名前を伝えられません。
「トエトちゃんも名前の最後に“と”がつくの、僕とおんなじだね!」
カイトくんは嬉しそうにメイコちゃんの手をぎゅうっと握りました。
メイコちゃんはもう、それはそれはびっくりして、あったかい手を振り払うと、
一目散にぴゃあっと逃げ出してしまったのです。
その日の夜、お布団に入ったメイコちゃんは、何てひどいことをしてしまったんだろう、と小さな胸を痛め、
涙をぽろぽろと零しました。
カイトくんにとってのメイコちゃんもまた、初めて会った仲間。
見知らぬ場所で、知らないことばかりで、さぞ不安だったでしょうに。
あんな風に下を向いて、返事もしないで、挙句の果てには握手を拒んで逃げ出して、彼はどんなに傷ついたことでしょう。
ごめんね。ごめんね。本当はおしゃべりしたかったの。
心の中でいくら謝っても、カイトくんにはきっと届きません。
どうしよう、どうすれば誤解を解けるのかな。
泣き疲れたメイコちゃんは、夢の中で猫の帽子を被っていました。
可愛い可愛い帽子で、きっと心もうきうきしてくるはずなのに、メイコちゃんは真っ赤な目で泣いていました。
ごめんなさい。わたしのせいで、カイトくんに嫌な思いさせちゃった。
わたしなんてさっさといなくなっちゃえばいいのに。
「違うよ」
思わず声を出すと、うずくまって泣いていた、猫の帽子のメイコちゃんがびっくりしたように顔を上げました。
「あなたは、わたし?」
「うん、そうなの」
「じゃあわたし、迷惑だよね。本当にごめんね」
「……そんなことないよ!」
メイコちゃんは思ったより大きな声が出せたことに自分でもびっくりしました。
「あのね、私はあなたのこと、好きだよ。だってあなたも私の一人なんだもの」
猫の帽子のメイコちゃんは、ぽかんとした顔で目を丸くしています。
「だからね、明日カイトくんに会ったら、あなたの分まで私が話してくるわ」
そう一気にまくし立てると、猫の帽子のメイコちゃんは、濡れたほっぺのままにっこり笑ったのです。
「ありがとう、わたし」
にゃあ、と耳元で泣き声がしました。
まばたきをすると、明るい日差し。今日はとってもいい天気です。
枕元でごろごろ喉を鳴らす子猫の頭をなでながら、メイコちゃんは小さなあくびをひとつ。
真っ白い毛並みに赤い首輪と鈴をつけたトマトは、メイコちゃんと暮らしているお友達です。
トマトにご飯をあげながら、はっと夕べの夢を思い出しました。
「ちょっと…様子を見てこようかな……」
見るだけ見るだけ、と唱えながら、メイコちゃんは木の陰からこっそり頭を出しました。
カイトくんは昨日とおんなじ場所に座っていました。
春の日差しと暖かい風の中、鼻歌を歌いながら、お花を摘んでいます。
少し橙がかった赤いお花がひとつ、ふたつ。
その時ふと、前触れもなく、カイトくんがくるっと振り返り、メイコちゃんは飛び上がるほど驚きました。
「やあ、おはよう。僕とおんなじトがつくトエトちゃん」
「あ、あの!え、と、ええと…」
カイトくんは、昨日と変わらない優しい声でした。
けれどもいきなりの出来事に、メイコちゃんの頭の中は真っ白で、やっぱり上手く言葉が出てきません。
「え、う…あの…」
恐る恐る目線を上げると、カイトくんは、優しい顔で、でもちょっとだけ困ったような顔で笑っていました。
えっとえっと、あのえっと、夢のわたしに私は何て約束したっけ……。
「……めいこ!!」
「え?」
気がつくとメイコちゃんは、大きな声で自分の名前を叫んでいました。
「えと、わ、私…の名前、メイコ……っていうの!」
「あれ、そうだったの?」
ちょこんと首を傾げるカイトくんを見て、メイコちゃんは顔とおんなじくらい、胸が熱くなるのを感じました。
一度声に出してしまうと、言わなくちゃいけないことがたくさんあるような気がして、
口から言葉がぐちゃぐちゃに転がりだします。
「うぅー…ごめん、なさい…」
「何で?」
「だ、って…おんなじトがつかないもん……」
あ、どうしよう。間違えた!ごめんなさいの内容が違ってる…!
昨日逃げてごめんなさい、だったのに。逃げてごめんなさい。逃げてごめんなさい。
「逃げt
「メイコちゃん。僕はメイコちゃんって名前も好きだよ」
「え、な……!?」
「改めて、よろしくね。僕とおんなじ“い”のつくメイコちゃん!」
「え、あ……。……うん!」
おしまい
トエトが思い入れのある大好きな歌になったことを、とても嬉しく思います